カラス
実はオレ、歌舞伎町が大嫌いなんだ。
なんでって、人が大勢いてゴミゴミしてんだろ?
歩きづらいしなんだかクサくて、うぜぇったらない。
この街にいると、店頭に放り出されてるゴミになったような気になるんだ。
酒にキャバクラ、夕べ引っ掛けたコとホテルから出たのは昼過ぎ。
これから家に帰って、あれやってこれやって・・・数時間後には仕事だ。
まったくイヤになるほど働いてんだが、金はちっとも増えやしない。
どうでもいい連中の話を聞くフリして、ゲラゲラ笑ってりゃ楽だろうって?
それがおそろしく疲れんだよ、奴らはみなオレに呪いを掛けるからサ。
オレってすげぇだろ/アタシってステキでしょ/ケドほんとは寂しくてたまらない
こんなにガンバッテるのに報われなくて
テキトーやってから別にたいしたこっちゃないとか言うけどサ
ホントは違うんだ/ホントのオレを/ホントのアタシを
知る者は誰もいない/知ってほしいんだ
知ったこっちゃねぇ。
店を閉めて外に出れば、路上には泥酔者と店終いをする同業者の姿がチラホラ。
夏には真白な光、冬には朝もやでハッキリとは見えない。
あぁ、オレの頭が朦朧としてるってのもあるんだが。
昨日はどれだけ飲んだっけ?
カラスがギャアギャアうるさくて、数える気にもなれない。
徒党を組んでゴミを啄ばみ食い散らかす、忌々しい奴ら。
ネットもキラキラ光るモールも、奴らにゃまるで効きやしない。
人間様の頭上をかすめ飛び、首を竦めさせて我が物顔でビル上に止まる。
投網を掛けて・・・光で誘い込み・・・高いところへ誘う・・・
なんだ、この街と同じじゃないか。
ホントはカラスが人間様ってわけか。
上から見下ろす気分はどうだい?
そうだ、今夜はビルの屋上にのぼってみるか。
地上のネオンと雑踏を見下ろし、王様気分を味わえるかもな。
「灯りがないところに配管がグネグネ通ってるだろ?
足元すくわれるぜ。
柵はないからそのままダイブだ」
それもいいとオレは思うから、止められたってやっぱりのぼってみるサ。
痛いのはゴメンだから、足元にはそりゃ注意するがね。
うっかり躓いて放り出された先のことまでは、知ったこっちゃねぇ。
歌舞伎町の夜空を舞うのもオツなもんだろ?
カラスのように黒くてピカピカした翼はないが、地上まで何メートルの小旅行。
新聞ネタにもならないのは好都合。
誰にも気に止められなくていい、オレがどこのなんて奴かなんて知られなくて結構。
あぁでもひとつだけ、できることなら救急車を呼んでくれないか。
可燃不燃も一緒くたにブチ込んだ、ビニール袋に詰められて。
清掃車に回収される前に。
奴らの腹を満たすエサになるのはゴメンなんでネ。