ウソツキ

「本気で好きになるのは、あんたが初めてよ」
女がそのセリフを口にするのは何回目だろうと思いながら、オレは言う。
「嬉しいね、オレもだよ」

この街で女が男といるところを、オレは何度となく見てきた。
どれも違う男だった。
どれもそこそこのルックスで、この街で金を得る男だった。

女はウソをつくものだが、この街では男もウソをつく。
オレは何度なく違う女と時を過ごし、何回目かのセリフを口にした。
どれもそこそこのルックスで、それなりの金がある女だった。

「本気で好きになるのは、あんたが初めてよ」
女がそのセリフを口にするのは何回目だろうと思いながら、オレは言う。
「あいにく、オレはそうじゃない」

この街ではウソをつき通すのがルールだが、女はそれを破ろうとした。
女にウソツキとなじられて、オレは女の愚かさを腹立たしく思った。
初めにウソをついたのは女で、オレはそのウソに付き合ったんだ。
ウソツキはお互い様だと罵り、オレは女を遠ざけた。

今まで何度となくそうであったように、オレはまた女が違う男といるところ見るだろう。
そこそこのルックスで、この街で金を得る男に、何回目かのセリフを言うところを。
そして、ウソに慣れ過ぎたオレが聞き流したあのセリフ-------

「愛してる」

それは女が生まれて初めて、心から口にしたセリフ。
ウソからマコトが出ることは、女しか知らない。

ページの先頭へ

Copyright(C) Noriko Amami All rights reserved.